自分古文書(3)「童話 弘君の顔とお地蔵さん」2

庭のタカサゴユリ
外来植物で繁殖力が大変強いようで
見かけたら抜いて下さいという
花が終わったら抜こう 

 2025.8.12 

 「童話 弘君の顔とお地蔵さん」の続き

  夜八時に弘君はいつものようにお母さんにふとんをのべてもらい、その中にもぐりこみました。いつもなら、すぐ寝ついてしまう弘君でしたが、今夜はなかなか眠れません。                               

 「長い顔!長い顔!お馬さん、お馬さん、ここまでおいで」

 はやし立てる子供たちの声が何度も何度もくり返して聞こえて来るのでした。こみ上げて来る涙をようやくおさえながら、「ちきしょう!ちきしょう」と何度となくつぶやきました。しかし弘君もしばらくするとようやく昼間のつかれが出たのか、さわやかな寝息を立て始めました。

 弘君は夢を見ました。カバンを背負って学校に行きかけていますと、うしろから、

 「弘君!弘君!」とよぶ声がしました。

 「だれ?ぼくをよんだの」

 ふり返ると誰もいません。ただ道ばたに赤いよだれかけをかけ、鉄のつえをついた石のお地蔵さんがポツンと立っているだけでした。弘君が歩きかけると、また、「弘君!弘君!」とよぶ声が聞こえて来ます。弘君はその声がたしかにお地蔵さんの方から聞こえてくるのに気がつきました。その前まで来ると突然お地蔵さんが口を開きました。

 「弘君、しばらく待ちなさい」

 神々しい声でした。弘君は少しもびっくりしませんでした。これがお母さんの言っていた神さまじゃないかしらと思いました。それで、

 「お地蔵さんは神さまなの」とたずねました。

 「そうじゃ。そうとも言う」

 そこで弘君はお地蔵さんに質問しました。

 「それじゃ、どうしてぼくの顔を長くしたの」

 「それはじゃね。弘君には長い顔がちょうど似合うと思ったからなのじゃよ」

 お地蔵さんはニコニコしながら答えました。

 「ぼくは顔がこんなに長いから、みんなに笑われるんだよ。ぼくも普通の人と同

じように短い方がいいや」

 弘君は口をとがらせて言いました。

 「おや、こまったことじゃ。弘君が短くしてくれと言うんなら短くしてやってもいいんじゃが、あとからやっぱり長い方がよいから長くしてくれなんて言っても、もうもと通りにはならないよ」

 「いいよ。ぼく短い方がいいんだもん」

 「よおし、それじゃ短くするよ」

 お地蔵さんは口の中でぶつぶつ呪文をとなえてから、「弘君の顔よ、短くなれ」とつえをふって、つえの頭についている金具をじゃらじゃらいわせながら、最後に「ヤァ」と気合をかけました。するとどうでしょう。弘君の顔はみるみる短くなり、みんなと同じようになりました。

 弘君はたいへんうれしかったので走って学校に行きました。とちゅうで出会った子供たちも、もう弘君をはやしたてませんでした。学校につくと、弘君はいつもはこんなことはしないのに、組のみんなに「おはよう、おはよう」と言って歩きました。みんな少しめんくらったような顔をしています。みんなは自分の顔が短くなったから驚いているのだと思うと、弘君は得意でなりませんでした。そうしているうちに先生が入ってきました。先生は弘君の顔を見ると、

 「こまりますね。よその組の人が入って来ては。さあ、あなたの組にお帰りなさい」と言いました。

 「先生!ぼく、弘だよ」

 「なるほど、そういえば弘君にそっくり。でも弘君の顔はもっと長いわ。弘君はどうしたのかしら。かぜでもひいたのかしらね」

 そこで弘君は自分の顔が短くなったわけをくわしく先生に話しました。すると先生はホホホホホと笑って、

 「そんな夢みたいな話をしていないで、早くあなたの教室に帰りなさい」と取りあってくれません。とうとう弘君は廊下に出されてしまいました。弘君の眼からは涙があふれだしました。泣き泣き弘君は家に帰ってきました。お母さんは買い物に出かけたのか、見あたりません。弘君は泣きながら、なにかおやつはないかとねずみいらずをさがしていると、お母さんが帰ってきました。

 「あら、だあれ、そんなところでゴソゴソしているのは」・・

 「ぼくだよ」・・

 「なんだ、弘じゃないの。今ごろ琮玽璉じゃないわ、あなただあれ」・・

 「ぼくだよ。弘だよ」・・

 「弘は今、学校に行っているのよ。でもあなた、ずいぶんよく弘に似ているわね。

といっても弘はもっと顔が長いけど。あなた何しに来たの。何かご用なの」・・

 お母さんがこう言い終わるか終わらないうちに、弘君の短くなった顔が引きつっ

たかと思うと、表へ飛び出していました。弘君は夢中でかけながら、・・

 「ぼくは弘だ!弘だよう!ぼくは弘なんだよう!」とさけんでいました。そのうち弘君の声は鼻がつまりとうとう泣き声に変わっていました。お地蔵さんのところへやって来ると、弘君は、

 「神さま神さま!どうかぼくの顔をもと通りにして下さい」と何度も何度もお願いしました。しかしお地蔵さんはただニコニコと笑っていらっしゃるばかりで答えてくれませんでした。

(つづく)

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