自分古文書(3)「童話 弘君の顔とお地蔵さん」1

2025.8.8
山口康幸君は高校の同級生で、仲の良い友達だった。もう実名で話しても、関係者はほとんどいないから、少々情報が間違っていても、問題なかろう。彼がガンで亡くなって、もう50年近く経つ。彼の顔はやや長く見えた。特にそんな指摘をすることもなかったが、題材に使っても気にするような男ではなかった。
もともと彼は京都の会社社長のお妾さんの子供であった。認知はされていたが、京都には住み辛かったのであろう。母と子で城崎温泉に移り住んでいた。そんなことは皆んな知っていたが、それをどうこう言うものはいなかった。
彼は高校を卒業して京都に出て、父親の会社に入って働きはじめた。自分とは遠隔の地で、便りも絶えていたから、突然の訃報に驚かされた。嫁さん貰って、子供も出来て、これからという時の訃報だった。葬儀に駆けつけて、見た彼の死に顔は悔しそうに、まだこの世に未練を残しているように見えた。
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童話 弘君の顔とお地蔵さん
はじめに
童話を書いてみたいと思っていた。ある日、山口康幸君の長い顔を見ていて、ふとインスピレーションというやつが浮かんで来た。芥川龍之介の『鼻』も幾分かヒントになった。そしてその中に自分の考えを折り込もうと思って書いた。実際に書いたのは昨年の12月頃、それをまとめたのが今である。出来るだけ幼稚にかわいらしく書こうと努めた。はたして自分に童話を書く才能があるのかどうか。自分には解らない。だれかの批評を聞きたいと思っている。
昭和40年3月10日 朝1時2分前。テストも終わり、ゆったりした気分で。
弘君は小学校三年生の元気の良い少年でした。しかし弘君にも一つ気にしていることがありました。
ある日のことです。学校から帰りかけている時でした。遊園地の所まで来ると、そこで遊んでいた五、六人の小さい子供が弘君を見上げて言いました。
「わあい。長い顔だなぁ」
そうなんです。それが弘君の気にしていることだったのです。弘君は自分の一番いやがっていることを言われて真っ赤になっておこり出しました。それを見ると子供たちはいよいよ調子にのって、
「やあい、長い顔!長い顔!お馬さん、お馬さん、ここまでおいで、やあい、やあい」
と声を合わせてはやしたてました。たまらなくなった弘君は家に向かってかけ出してしまいました。
※
弘君はおやつを食べながらお母さんにたずねました。
「お母さん、ぼくの顔はどうしてこんなに長いの。ねえお母さん」
「どうしたの。どうしてそんなことを聞くの」
「だってみんなぼくの顔を見て、馬、馬って言うんだよ」
お母さんは不平満々の弘君の長い顔を見ながら、どう答えたら良いのか、大変こまってしまいました。
「ねえ、どうしてなの」
弘君はしつこくたずねました。こまりはてたお母さんはとうとう、
「それはね、困ったわねぇ‥‥‥そうそれは神様がなさったことなのよ。神さまは弘の顔は長い方が良いと思ってそうなさったのよ。だからそんなこと少しも恥ずかしがることないのよ」
弘君がだまってしまったのを見てお母さんはほっとしました。ところが弘君はそれでなっとくしたわけではありませんでした。心では、
「神さまはなぜ僕だけ顔を長くしたんだろう。もっとたくさん、長い顔の人を作っておいたら、あんなふうにいじめられないのに」と神さまに対して不平満々でした。
※
(つづく)
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