自分古文書(3)「童話 弘君の顔とお地蔵さん」3

静岡城北公園のサルスベリ
白から赤までグラデーションのように 
4種類の花の色が並ぶ 

2025.8.1 

午後、暑さの戻った静岡へ、駿河古文書会で向かう。気になっていたカルガモ親子、今日はコガモが一羽しか見かけなかった。もとは10羽近くは生まれたはずで、天敵が近くにいるのだろうか。生存率はこんなものだろうか。厳しい!

「童話 弘君の顔とお地蔵さん」の続き、で今日は終りとなる。この童話を級友たちに見せたのだろうか。反応はあったのか。記憶にない。もう聞いてみる級友もあちらへ行っている。さあて、次は「奇壁」という小説である。 

 弘君が眼をさましたときはもう朝でした。すずめの鳴き声がしきりに聞こえてきます。お母さんはもう起きていて台所でコトコトと音を立てていました。起き上がるとすぐに弘君は鏡に顔をうつしてみました。

 「よかった。ぼくの顔、長いや」

 弘君はうれしそうに笑いました。鏡の中の弘君もニコニコ笑っていました。弘君は台所に行き、お母さんに言いました。

 「お母さん、ぼく、よくわかったよ」

 「あら、弘ちゃん。今日は早いのねえ。それでわかったってなんのこと」

 「あのね、きのう言っていたでしょ。ぼくの顔のこと」

 「ああ、そうだったわね」

 「ぼくの顔が長いのではないのだね」

 「えっ?どういう意味なの、それ」

 お母さんはふしぎそうな顔をしてたずねました。

 「つまりね。こういう長い顔をしたのがぼくなんだよ。つまり短い顔だったらそれはいくらぼくに似ていてもぼくではないんだよ。だから、ね、お母さん。神さまはぼくをみんなから区別できるように顔を長くして下さったんだよ。お母さんだって人ごみの中でぼくをすぐ見つけられるだろう。顔が長いってすごく便利だよね」

 「あら弘ちゃんたら。でもえらいわ、そうね、よくわかったわ。お母さん、弘ちゃんを見なおしたわ。でもどうしてわかったの」

 弘君はヘヘヘヘと笑うだけでした。お母さんもうれしそう、平和で明るい朝でした。

 その後、弘君は自分の顔のことを少しも気にしなくなりました。そうなると、いつの間にか長い顔をはやしたてられることもなくなりました。みんなはただ、弘君があんまり長い顔を気にしていたので、面白半分にはやしたてていたのでしたが、弘君が気にしなくなったのでつまらなくなり、やめてしまったのでしょう。弘君は神さまって本当にいらっしゃるんだなぁと思うようになり、お地蔵さんがたいへん好きになりました。そしてその前を通るたびにお地蔵さんに声をかけるのでした。

 「お地蔵さん、今日試験に百点とったよ」

 「お地蔵さん、明日は遠足なんだよ」

 「お地蔵さん、今日、先生にほめられたよ。ぼくすごくうれしいんだ」

 お地蔵さんはいつもニコニコ笑っていらっしゃいました。

 15年程たちました。弘君ももう24才のりっぱな青年でした。顔は肉がついたせいか、子供のときほど長く感じませんでした。しかしやはり普通の人より、やや長めでした。そして弘青年はそのためにかえって美男子に見えるのでした。そばには将来お嫁さんとなる丸顔のかわいらしい娘さんがよりそっていました。弘青年は道ばたの昔のままのお地蔵さんの前を通りかかりました。

 「お地蔵さん、この人がぼくのお嫁さんになる人なんだよ」

 お地蔵さんは15年前のようにニコニコ笑っていらっしゃいました。

                                         完   (昭和40年3月)

  ━ この童話を精神年齢9才位の我が級友達にささげる  

 

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